樹木葬:何年で土に返る?霊園への導入に難題/東京都

【引用】:毎日新聞(2009/5/30付)

 自然回帰志向の高まりを背景に、東京都は遺骨を骨つぼに収めず直接土に埋め、墓石の代わりに木を植える「樹木葬」を都営墓地に導入することを検討している。土壌での化学作用で遺骨が消滅した後、次の遺骨を埋めることでスペースを再利用し、用地不足に対応することも狙いだ。ところが「骨は何年で土に返るのか」という難題が浮上。データが見つからないうえ実験も不可能で、担当者は頭を抱える。理想の樹木葬は実現するのか。【市川明代】


 都立霊園は8カ所あり、いずれも人気は高い。過去5年間の公募の平均倍率は青山(港区)が18.5倍、小平東村山市)22倍。今後、団塊世代の高齢化で墓地用地の不足が懸念される。そこで都が注目したのが樹木葬。「遺骨は何年で土に返るか」が分かれば、その期間を経て次の遺骨を埋めることができ、限られた用地の有効利用になると考え、昨年、調査を開始した。


 だが樹木葬は歴史が浅く、実証データが見当たらない。考古学者や博物館長、仏事の専門家らに尋ね、文献にも当たったが答えは出なかった。それどころか「最新型の火葬施設で高温で焼かれた遺骨はセラミック化して土中で分解しにくい」という説さえ浮上した。


 民間の樹木葬墓地では、三十三回忌などを節目に次の遺骨を重複埋葬する場合があると約款で示すケースもある。だが都営墓地としては、他人の遺骨と交ざるかもしれないことに都民の理解が得られるかどうかの懸念がある。「公営で唯一の樹木葬」をうたう横浜市の「霊園メモリアルグリーン」では、重複埋葬はしない代わりに1柱ずつ骨つぼに入れる方式で、都の追求する「土に返る」の理念には合致しない。


 NPO法人エンディングセンター」が東京都町田市の民間霊園に開設した「桜葬(さくらそう)墓地」は、未来永劫(えいごう)、別人の遺骨と一緒にしないと約束するが、スペースを再利用できないため用地不足の解消にはつながらない。


 エンディングセンター代表の井上治代・東洋大准教授は「骨の形状をとどめていない状態をもって『土に返った』と見なすかどうか、といった判断になるのではないか」と指摘する。


 ◇樹木葬
 国内では99年に岩手県一関市の知勝院(旧祥雲寺別院)が里山再生の目的で裏山を樹木葬墓地にしたのが始まり。「自然に返りたい」との現代人の志向に合ううえ、維持管理の負担が小さいことから広がりをみせている。一定区画を1人分の墓所用地とし、脇に木を植える方法が一般的。大きな木の周りを囲むようにして、複数の遺骨を埋葬するものもある。

【引用】毎日新聞(2009/5/30付)